「それで、今日は何をするんですか?」
「……特にはないよ。はあ、何か面白い事ないかなあ」

 また、それですか。

 呑気にファッション雑誌を読みながら「これは変だな」とか、「ファッションセンスがない」とか、有名ファッションモデルが着ている服にケチをつけている副部長。

 ヒラヒラしたフリルが付いたスカートやピンクや赤のジャケットなど、おそらく自分では絶対に着ないだろうと思われる服に、そこまで鋭い眼光を向けるのは怖いので止めて欲しいです。

「それじゃ、私はお茶を淹れて来ますね」

 和音さんがいつものようなら、こちらもいつもの調子で席を立った律子ちゃんが給湯器の前に歩いていく。

 六畳一間のボロアパート風の部室でも一応は『ガス温水給湯器』なる近代文明品が付いているのでお湯を沸かすくらいの芸当は出来る。まあ、お茶を淹れるか、カップラーメンの湯を沸かすか、そのどちらかにしか使わない宝の持ち腐れ的代物であるが、本来の給湯器はそれが仕事であるから問題はない。

「あっ――私、珈琲(コーヒー)お願いね」

 副部長はすかざず注文を入れているが、律子ちゃんは当たり前のように「分かりました」とだけ告げ、笑みを浮かべていた。

「伏峰先輩は何を飲みますか?」
「そうだね……俺も珈琲でいいよ」
「はい。えっと、砂糖とミルクもですよね?」

 俺が小さく頷くと「分かりました」とさっきと同じように笑みを浮かべ、手馴れた手つきで珈琲の用意をしていた。

 別に豆から挽いてサイフォンに――ってわけではなく、普通のインスタント珈琲である。しかし、律子ちゃんが淹れるとインスタント珈琲が豆から挽いたような新鮮な香りとコクがあるように感じるだから不思議である。ドジっ子スキル以外にもお茶汲みスキルまで持っているとは……どれほどのスキルを保有しているのか、一度確認したいものだ。