「私が男であったなら絶対お前になど負けんっ!」

冷めた目付きでこちらを睨み返す緑。


「…翡翠が男であっても俺は負けん。むしろ翡翠に守られるなど真っ平だ。」


そう言って持っていた木刀を手ぬぐいで磨いている。



「父上は…、戦が嫌いなのじゃな…。負けると思うておるのじゃ…。だから、桔梗をガイタ国になど人質に!!」

「翡翠…。それも政のいっかんだ。立派なことだろ?」


何が立派なんだ?
そして、何故長女の私じゃなくて妹の桔梗が人質にならねばならんのだ?
父上なんかただのへっぴり腰じゃ…。


「私がいつか必ず、桔梗を取り返してみせる!!」

「はいはい。出来るもんならやってみな。」

こんな会話が毎日繰り返される。
だから、緑はいつも面倒そうに返事をする。
だけど、


「お前は…、緑だけは父上がなんと言おうとこの国からは出させん!」

拳を握りながら私が言うと、

「現王がなんと言おうが、翡翠の守護兵は俺だ。どこにもいかん。」


そう言って緑は私の拳を自らの手で包み込む。


これも毎日のことであった。




城に戻ると何やら慌ただしい雰囲気が漂っている。


「な、何事じゃ?」


「姫っ!!こちらへ!!!」

「はっ?」


一瞬で緑との間に距離が出来た。

「姫は、暫し奥の間でお休みくだされ!」

な、なんじゃ?
何が起こっておるのだ?


不安そうに緑の方を振り返るとそこに緑の姿はもうなかった。