「嫌……行かないでっ! 私を一人にしないで、空っ!」

 今まで感じていたはずのみゆきの温もりも、今は感じなくなってきていた。

 必死に僕を掴もうとするみゆきの手がするり、とすり抜けていき、呆然と自分の手を見つめているみゆきの瞳から、また大粒の涙が零れ落ちていく。

「また、お願いするから! だから……」

 もう駄目なんだよ。みゆき……僕はいつまでも、ここにいてはいけない存在なんだよ。

「駄目だよ……みゆき」
「そ、ら……」

 ゆっくりとみゆきの唇に重ねる。

 もう、温もりも感じる事はない。唇を重ねているのかも分からない。

 それでも、僕は感じていたかった。

 最後までみゆきの温もりを、優しさを……この身体いっぱいに。

「笑顔で見送って……」
「空……いやっ、いかないでっ」
「だめだよ……。もう、行かないと……」

 僕を掴もうと必死に伸ばしては、宙を彷徨う手。出来る事なら、掴んであげたい。目の前に大好きな人が泣いているのに、何も出来ないなんてそんなの悲しすぎる。だけど、もう僕の手は何も掴めないんだ。

「そら……そ、ら、いや、いや……いやだぁ」
「ほら――わら……って、よ」

 僕の頬を、静かに流れ落ちる涙。

 ――行きたくない。

 でも、それは駄目なんだ。

 僕はもう、この世にはいない人間。

 ここにいたのは、きっと神様がくれた奇跡。

 そして、僕への贈り物だったのかも知れない。

 楽しかったよ……この一年。

 どこにもいけない僕に、みゆきはずっと一緒にいてくれた。

 だから、これからはみゆきの幸せを願う事が僕の役目なんだ。

 そのために僕は行くんだ。