「本当は、期限なんて言われてないの。
だから社長としては、できるだけ早く別れてほしいんだと思う。
でもそんなに簡単に気持ちの整理がつくわけもなくて…」

「…つらいね」

呟いた友香は、汗をかいたジョッキを指でなぞって視線を落とす。

しばらく沈黙が続く中、葉山はビールをおかわりしていた。

それを見て友香はまた、空気を読めとばかりに葉山をじとっと睨んだけど、葉山は気づかない。

だけど、こんな重い話をしている中で、自覚がないながらも葉山がいつも通りそうしていることに少しホッとする。

「……ごめん。
せっかく話してくれたのに、私にできること…
加奈を助けてあげる方法、全然思いつかない」

「ううん。聞いてもらえただけで、ちょっと気持ちが楽になった。
ありがとう」

「…もし別れること自体がもうどうにもならないことなんだとしたら、別れる口実に必要なら葉山はいくらでも貸すよ。
引っ越すにしても、葉山に任せとけば引っ越し業者いらないし」

「おいっさっきから俺をこき使いすぎだぞ」

「まだ使ってないでしょっ」

2人のやり取りを見ながら、また笑える自分がいる。

「…ありがとう」

葉山は同期会でさんざん飲んで食べたのに、ここでも私と友香が話している間にビールを3杯飲んでいた。