すぐにインターホンが鳴り、画面を確認しないままドアを開ける。

「お疲れ様」

「お疲れ様。座って。
コーヒーでいい?」

「うん」

疲れ切っているような様子はないけど、その顔は決して明るくない。

ケトルでお湯を沸かしてホットコーヒーを作り、テーブルに2つカップを置いた。

秋はソファに座り、私は斜め向かいにクッションを敷いて座った。

カップを手に取る様子はなく、秋はじっと私を見つめる。

その顔はなぜか少し怒っているように見える。

「…葉山って奴と、どうなってんの?」

いつもよりも低い声色にギクッとした。

聞こえてしまっていたのか。

前田さんの声は甲高いから、普通の声量でも耳につく。

「…どうもなってないよ。
周りが勝手に勘違いして噂になってるだけ」

「でも結婚がどうとかって話してたのは事実なんだろ?」

「うん。会社の前で落としたスマホを拾ってあげたら、その人に待ち伏せされるようになって…
葉山は柔道できるから、ボディガード代わりに帰りついてきてくれて、相手を牽制するために結婚だなんて言ってくれただけ」

秋が黙り込んで、少しの間沈黙がおりた。

「…なんで俺に先に言ってくれないの?」

あの時、忙しい秋に助けを求めようという気持ちはなかった。

その後すぐ友香がボディガードを提案してくれたから、余計にだ。

「…秋、忙しいから邪魔しちゃ悪いと思って」

秋の責めるような顔をうまく見られず、重い空気に耐えられなくてコーヒーを一口飲んだ。

なぜかいつもよりも苦く感じて、舌が痺れる。