葉山は私をかばって一歩前に出て、ドスの利いた声で男を威嚇する。

「俺の彼女になんか用?」

え、と小さく戸惑う声が聞こえた。

背が高くガタイのいい葉山は、猫背で小柄な男を完全に圧倒している。

「あんたは彼女とは付き合えないよ。
俺と彼女は付き合ってるし、もうすぐ結婚の予定だから」

結婚!?

心の中で叫びつつ、そのくらい言っておいたほうが効くのかな、と納得した。

しばらく放心した様子だった男は、子供のように口をへの字にしてとぼとぼと駅とは反対方向へ歩いて行った。

その背中を見届けながら、強張っていた身体の力がため息と共に抜けていった。

「気が弱そうなやつだから大丈夫そうだけど、念のためにしばらく一緒に帰るから。
友香にそうするように言われてるし」

「ありがとう葉山。
ごめんね、変なことに付き合わせて」

「いや、これを機にいいとこ見せとかないとな。
みんなにいじられてばっかりだし。
友香は完全に俺より優位に立ってるし」

哀愁漂う葉山につい声を出して笑ってしまった。

「笑うなよー」

「ごめんごめん。
将来尻に敷かれて子供にまでいじられる葉山が想像つくなと思って」

「恐ろしい想像するなよ!」

葉山と友香はなんだかんだで仲がいいから、もしかしたらこのまま結婚まで行くかもしれない。

友香に似た女の子が生まれて、葉山が友香と子供に『もーパパったら!』って責められる姿が目に浮かぶ。

いつか本当に来るかもしれない未来。

私には眩しくて仕方ない。