そんなやりとりを聞いていたのかいなかったのか、葉山はもぐもぐ食べていたお弁当をごくりと飲み込んだ。

「友香に聞いたよ。
昨日大変だったんだってな」

「ああ、うん。今朝も待ち伏せされてて…」

「ホントに?」

「マジで?」

友香と葉山の声が重なり、2人は顔を見合わせて頷く。

「あのね、嫌かもしれないけど、今日は葉山と一緒に帰って」

「嫌かもしれないけどってなんだよっ」

「恋人のふりをしてもらうの。
嫌かもしれないけど」

「だから嫌かもしれないってなんだっつーの!」

葉山のツッコミは完全に無視で、友香は深刻な表情を浮かべる。

「ほっといてエスカレートしたら困るし、よりによって会社知られてるわけだからさ。
葉山は柔道やってたし、交番のおまわりさんよりあてになると思う」

「それはありがたいけど…
そういうのって逆上したりしないのかな」

「手はいくらでもあるよ。
とりあえず葉山はあのヒョロ男には絶対負けないし、エスカレートしそうなら警察に被害届を出して動いてもらえる」

ね、と友香に同意を求められた葉山は、

「任せとけよ。俺、何度か痴漢撃退したこともあるんだぞ」

と自慢げに鼻を鳴らした。

確かに、このまま放っておいて毎日朝も夜も怖い思いをするのはごめんだ。

申し訳ないけど、素直に甘えてしまおう。

「ありがとう、2人とも。
じゃあ友香、ちょっと葉山借りるね」