翌朝、まさかとは思ったけど、彼はやっぱり会社の前にいた。

おどおどした様子のまま、なぜかまたスマホを握りしめて辺りを見回している。

気づかれずに去りたいと思ったけど、彼にはすぐに見つかってしまった。

「あ、来た。あの、俺、君のことが…」

俯いたまま駆け足で社員通用口まで向かった。

「あ、待って…」

背中に声が聞こえたけど、そのあとの言葉は聞き取れないまま扉は閉まった。

よりによって、スマホを拾ったのが会社のすぐ前だったのが不運だった。

IDカードがないから通用口から入ってくることはできない。

正面入り口から入ってきても、怪しい人なら警備員に止められる。

だけど会社の外では別だ。

もしも帰りも待たれていたら…

あの人は何の仕事をしているんだろう。

昨日も私服だったし、今日も私服だ。

そして朝も夕方も通勤時間帯に待ち伏せをしている。

謎だらけだ。

朝から憂鬱な気持ちのまま、仕事もなかなかスムーズに進まなかった。