「あ、待って…待って」

声は遠ざからず、靴音もする。

ついて来ているのは間違いなくて、心臓がバクバクと音を鳴らし始める。

「どうしよう友香…」

声を潜めると、友香は意を決したように後ろをくるっと振り返った。

「この子のこと好きなの?」

声の主にそう尋ねると、彼はスマホを握りしめたままこくりと頷いて薄く笑みを浮かべる。

背筋がゾッとして、一瞬目の前が暗くなった。

「…ヤバい人だね。走ろう。
南口の脇で落ち合おう」

「うん」

小声で会話を交わすと、私と友香は同時に走り出した。

「ああ、待って。待って」

雑踏に紛れてとにかく走り、私を呼び留めようとしていた声はいつの間にか遠ざかっていった。

私も友香も、中、高と陸上部だった。

だからこそ友香も会社に戻るんじゃなくて走って逃げることを提案したんだろうけど、昔のようには走れるわけがなかった。

高校を卒業してからもう6年も経っているんだから当然だ。

喉がカラカラに乾いて脇腹も痛い。