「あのっ」

知り合いだろうか。だとしたら私じゃなくて友香のほうだ。

少し猫背の彼は、どこかおどおどしていて落ち着かない。

「朝スマホを拾ってもらった者です。
お礼をしたくて…」

彼の視線は明らかに友香じゃなくて私に向いていて、一瞬何のことかわからずぽかんとした。

…ああ。思い出した。あの時は顔をよく見ていなかったから覚えていなかった。

「お礼なんていいです。ただ拾っただけなので」

「いや、お礼させてください。
よかったらアドレスも教えていただけると…」

おどおどしながら画面の割れたスマホを握りしめるその様はどう見ても怪しい人だ。

よく考えたら、こんなに都合よく現れるわけがない。

ずっと会社の前で待っていた…?

そう考えたら急に恐ろしくなった。

事情を呑み込めていない友香は眉をひそめていたけど、相手がちょっとおかしな人だということには気づいたらしい。

「…加奈、無視して立ち去ったほうがよくない?」

小声で私の腕を引っ張った友香と一緒に、何も言わずに早足で駅のほうまで歩き出した。