時計に目を遣りながら、人の波に沿って駅から徒歩10分の会社への道のりを歩く。

10月も半分を過ぎると、日中でも少し寒くなってくる。

アパレル企業に勤めている以上、気候の変化は他人事ではない。

ECサイトでアウターの売り上げが急激に伸びそうだ。


――ガチャッ

会社の目の前まできて、何か壊れるような音がしたと思ったら、スマホが落ちていた。

後ろを歩いていた人にぶつかられながら、しゃがんでスマホを手に取った。

前を歩いていた人がGパンの後ろポケットに手を入れていたのが見えたから、間違いなくあの人だろう。

「あの!落としましたよ!」

彼を追いかけて声をかけた。

「え?」

振り返った男性は、スマホをかざして見せた私に、自分のポケットをポンポンと叩いた。

「ああホントだ。
ハンカチ出した時に一緒に落としたみたいだ。すみません」

「いえ」

渡したスマホは見事に画面が割れていて、彼は「あー」と肩を落とした。

かわいそうだけど、私は苦笑いするしかない。

何度も頭を下げる彼にこちらも会釈しながら、私は社屋の横を通り、社員通用口に向かった。