なんとなく頭の中であることを思いついて起き上がる。

部屋の電気をつけ、本棚から使わないまましまっていたノートを取り出した。

今日は10月10日。

とりあえず、秋とやりたいことを書き出してみよう。

後悔のないように、自分なりに納得したうえで別れを切り出したい。

ノートを1枚散切って『別れる前にしておきたいこと』というタイトルをつけた。

「…何があるかなあ」

あらためて考えてみると案外思いつかないものだ。

桜を見に行きたいとか、海水浴に行きたいとか、季節がずれてしまって絶対に叶わない願いもある。

限られた時間の中で、私のしたいことはなんだろう。

迷いながら少し書いて、それをペンでぐるぐると消した。

…違う。私がしたいのはこんなことじゃない。

気を取り直して書き始めたものは、思い浮かぶままにさらさらと書き進めることができた。

それはメモ書きというよりは自分の気持ちを吐き出したもので、書きながら涙が溢れた。

そもそもこんなものを書くことになるなんて思わなかったな。

『別れる前にしておきたいこと』

別れる前に、だなんて。別れようとも思っていなかったのに。

次々とつたう涙を拭いながら、メモは本棚の隙間に差し込んだ。

書いてはみたけど、きっと見ることはないだろう。

わざわざ読み返さなくても、忘れてしまうようなことは何も書いていないのだから。