私――水原加奈(みずはらかな)は社会人2年目の24歳。

3つ年上の穂積秋(ほづみあき)とは大学時代から5年付き合っており、現在同じ会社に勤める同僚でもある。

秋の2LDKのマンションの一室には私が泊まった時のために洋服が何着かストックしてあるため、タオルケットを巻き付けて寝室からその部屋へ移動し、今日の通勤服を物色する。

朝食を秋が準備してくれるのは、髭がほとんど生えないため朝の支度に時間がかからないからだ。

その間に、私は女ならではの面倒な支度をこなす。

リビングテーブルのスタンドミラーに見飽きた顔が映る。

秋のぱっちりした目とは違い、私は二重を描く弧の幅が広めなせいか、眠そうな顔に見える。

鼻も低いし、凹凸の少ない典型的な日本人顔だ。

秋はかわいいと言ってくれるけど、私はあまり自分の顔が好きじゃない。

ナチュラルにメイクを済ませ、肩まである髪の毛を丁寧にとかせば完了だ。

その間にコーヒーの香ばしい匂いが漂ってきて、食欲をそそられる。

ダイニングテーブルに向かい合って座り、手を合わせてから一緒に朝食をいただきながら、ルーティーンのようにテレビの天気予報をチェックする。

「もうシルバーウィークなんだね。
ついこの前お盆だった気がするのに」

「加奈、お盆の時は『ついこの前ゴールデンウイークだったのに』って言ってた気がする」

「えっそうだっけ」

秋はくすくす笑いながらパンを頬張り、くぐもった声で言う。

「社会人の一年なんてあっという間だよな。
季節感ないし」

「うん、いつの間にか年取ってる感じ。
気持ちは二十歳くらいで止まってるのに」

「わからなくはないけど、俺なんてもうすぐ27なんだから、加奈より切実だよ?」

「ふふっそっか」

会話をしながら、いつの間にか天気予報はニュースに切り替わっている。

時間の流れは本当に早い。

この調子で、気づけばクリスマスを通り越し、年越しを迎えて、また平凡で代わり映えのない1年が過ぎていくんだろう。