失恋をした。

今じゃない。正確には出会ったその日に、だ。


1歳年上の兄である秋が、大学院を終えて引っ越しをするとき。

「どうせ暇だろ?ちょっと手伝いに来いよ」

半強制的に引っ越しの手伝いに駆り出された。

そこにいたのが、水原加奈———兄貴の3歳年下の恋人だった。

決して人より秀でて美人なわけではない。

だけど、兄貴と一緒にいるときの彼女は…

兄貴と笑い合っている彼女は、とてもかわいくて、恋する乙女というのはこういう子のことを言うんだ、と思った。

俺は今まで適当に遊んでばかりいた。

母親の日記があまりにショックだったからなんだろうか。

恋というものがよくわからずにいたんだ。

なのに、家に帰ったらもう俺の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。

何の実感もなく、きっかけもなく、俺は知らぬ間に恋に落ちてしまった。

最初から叶わない恋だと知っていたのに。