それから秋の部屋へ行った。

秋がシャワーをしている間に、部屋に置いてあるお化粧品などの私物はさりげなくバッグにしまった。

それでも、私の痕跡が全部消えるわけじゃない。

2人で始めた500円玉貯金。

クレーンゲームでとった大きなぬいぐるみ。

私が選んだお揃いのマグカップ。

服もまだ物置き部屋にいくつも残っている。

それらはきっと秋を苦しませてしまうだろう。

結婚する前に全部捨ててほしい。

私との思い出は、秋には必要ない。

タオルで頭を拭きながら秋がリビングに入ってきた。

「加奈もシャワーする?」

「うん。してくる」

秋に笑顔を作ってからバスルームへと向かう。

水圧を最大にして頭からかぶった。

滴っているのがシャワーのお湯なのか、それとも涙なのかわからない。

だけど、目を赤くして戻ったら秋に異変に気づかれる。

最後の時間が台無しになる。

何度も深く息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。

…しっかりしなきゃ。

最後の時間を、秋と笑って過ごせるように。