「今日ありがとね。付き合ってくれて」

「いや、俺も楽しかった」

電車に揺られ、遠ざかっていく街を静かに見つめて少し切ない気持ちになる。

もう戻れない日々。

楽しい思い出ばかりじゃない。つらい思い出だってたくさんあったはずなのに、今はその全てが懐かしい。

秋と別れたあと、いつか今この瞬間に抱える苦しみや痛みも、ただ懐かしいと思う日が来るんだろうか。

そうであってほしいとも思うし、そうならないでほしいとも思う。

忘れなければ前に進めないのに、秋のことを鮮明に覚えていたいと思う自分もいる。

「…別にマンネリだったとかそういうんじゃないけどさ」

秋が口を開き、こちらに顔を向けて屈託なく笑った。

「ん?」

「学生に戻ったみたいで、ワクワクしたな」

「うん。そうだね」

おかしいな。こんなつもりじゃなかったんだけど、秋があの頃と変わらず隣にいることが愛しいと実感するばかりだった。

タイムリミットは、迫っていく一方なのに。