そのあと3駅戻って電車を降りた。

駅前再開発というものなのか、ずいぶんと駅前の様子が変わっていて驚きながら、徒歩10分。

「…あ。まだ健在だね」

「ホントだ」

苦笑いしながら懐かしい2階建てのアパートを見上げる。

2階の一番端が秋が住んでいた部屋だ。

今覚えばここも『隅っこの王子』だな。

「…なにニヤニヤしてるの?」

「ううん、別に」

当然ながらもう他の人が住んでいるようで、玄関ドアの隣のすりガラスに日用品らしきものの影が映る。

いかにも和の趣きの部屋なのにリフォームしたのかフローリングで、布団だと寝心地が悪いからとセミダブルのベッドを買ったら思いのほか大きくて部屋の半分近くを占拠してしまい、恥ずかしくて友達を呼べなくなってしまったのを覚えている。

来たからと言って部屋に入ることができるわけでもなく、ここにずっといるのも不審だから、Uターンして駅のほうへと向かった。

「加奈のアパートはもうないんだっけ」

「卒業した後に区画整理事業とかなんとかで取り壊されたみたい」

「なんか寂しいな」

「そうだね」

どちらにしても秋のアパートのほうが大学からは近かったから、こっちの部屋での思い出のほうが多い。

「秋はどうしてこんなところに住んでたの?
今の住まいとは全然違うのに」

「父親へのちょっとした反抗心だよ。
遅い反抗期だな」

秋はくすくすと笑ったけど、その横顔はあまり明るくなく、これ以上は聞かないことにした。

晴くんから聞いた母親の件もあるし、秋にも思うところがあってわざわざ家賃の安いアパートを借りていたんだろう。

実際、賃貸料はバイト代で賄っていたようだったし、反抗心というのは間違ってはいないのだと思う。