それから数日後、秋から『仕事が早く終わったから、今日泊まっていく?』とメッセージがきた。

重役の準備で忙しくないのかな。

無理して時間作ってくれてるのかな。

色々と心配しながらも、『行かない』という選択肢は選べなかった。

もう少しだけ…秋と一緒に過ごしたい。

私はすでにアパートに帰宅していたけど、疲れているであろう秋に迎えに来てもらうのは申し訳なくて、電車に乗って秋の部屋へと向かった。

マンションに着くと、秋もまだ帰ってきたばかりのようで、スーツ姿のままだった。

「誕生日、覚えててくれてありがとな。
俺すっかり忘れてたから。
自分の誕生日を忘れるなんて、もう歳だよな」

秋はスーツを脱ぎながら苦笑いをしたけど、私は文句を言われるかと思っていた。

1年に1度の誕生日に、ラインのスタンプだけだなんて、って。

去年までは、0時ぴったりにちゃんとしたメッセージを送っていたんだから。

逆の立場だったら私はきっとすねるだろうけど、秋は全く気にしていない様子だ。

秋は帰りにスーパーでお弁当を買ってきていたようだ。

私はここに来る途中にコンビニで小さなパンをひとつ買ってきた。

それを見るなり、穏やかだった秋の表情が険しくなった。

「…まだ食欲戻ってないじゃないか」

秋の顔を見て、やっぱり温泉旅行の時は気を遣って言葉にしなかったのだと思った。