お湯に浸かったあとはビールで乾杯だ。

それぞれが浸かった男女別の温泉の話や明日の計画を話しながら、ちびちびとビールを飲んでいたけど、あまり食べていないこともあり、すぐに酔いが回って来てしまった。

顔が火照って熱くなり、頭の中がふわふわする。

「加奈、目がとろんとしてる。
もう酔ってきた?」

「うん。場所がいつもと違うから、なんだか夢の中にいるみたい」

「そうだな。なんかいい意味で現実感がないよな。
これを機にいろんなところに旅行しようか」

「…うん」

それが実現したら嬉しいけど、これがもう最後の旅行だ。

友香のおかげだな。

別れる前にこんないい思い出ができるとは思わなかった。

「でも、まだ寝かさないからな。
露天風呂だと周りに声が聞こえると思って我慢したけど。
さんざん煽られたからな」

煽った?そんなつもりないんだけど…

なんていう前に、身を乗り出した秋の唇が触れた。

ビールを飲んでいたから、その唇は冷たい。

ビールの中身はまだ残っているのに、秋のキスはどんどん深くなり、そのまま私の背と膝を軽く持ち上げて布団へと移動させられる。

畳の井草の匂いが香る。

浴衣はすぐに脱がされて、まだ風呂上がりで熱い身体が私を抱きしめる。

互いがいつもより大胆になるのは、非日常的な空間だからだろうか。

愛しさは増すばかりで、何度も何度も求め合った。

できるならこのまま…

この熱い夢が覚めなければいいと、願った。