向かい合って座って、目のやり場に困った私は視線を泳がせる。

「そんな顔するなよ。伝染してこっちも緊張する」

「だって、一緒にお風呂に入るのは初めてだし」

「いつもシャワーで済ませるし、一緒に入ることなんてないもんな」

秋は湯船の底に手をついて身を乗り出し、啄むようなキスをして、子供みたいに無邪気な笑顔を見せる。

風呂から見えるライトに照らされた紅葉は、まるで造り物のように真っ赤で美しく整っている。

「紅葉、ちょうどよかったな」

「うん、時期ドンピシャだったね」

「予約取れてよかったな。
キャンセルがあった直後だったんだもんな」

「ね。すごいタイミングだったよね」

『露天風呂付の部屋、空きはないですか?』

もう日も迫っているから、普通の部屋の空きすらないかもしれないと半ばあきらめ気味に電話をしたら、

『あ、さっきキャンセルになったばっかりなので大丈夫ですよ』

とあっさり返事が返って来たのだ。

これは神様のプレゼントだと思っておこう。

紅葉を見ながら露天風呂を存分に堪能し、のぼせてしまう前にと2人で湯舟を出た。

この露天風呂が目当てで来たようなものだから、上がってしまうと寂しい気持ちになる。

明日の朝また入れないだろうかと思ったけど、きっと寒くて無理だろう。