「お父さん、単身赴任辞めることにした」
この決断をしてくれたお父さんに私は感謝してる。これが正解か不正解なんかなんてどうだっていい。たとえ不正解だとしても、私はそれを正解に変える。どうやったって結果は正解にたどり着くんだから。
私たち家族の絆は深い。そうみんなに自慢したくなった。
大丈夫、きっとどんな問題だって乗り越えていけるって思った。

まだ朝とは思えない。もうそろそろ家出ないとまた遅刻しちゃうよ。

制服に着替えて家を出る。
そして学校に向けてダッシュする。ずっと考え込んでいた私はこの風により吹き飛ばされた。例えると抜け殻的なやつ。新鮮な私の心。なにもかもを忘れていられるような気分になれた。

けれどそれもつかの間。
少しの間だけ安らいでた心は一気に泣きわめく。忘れてはならなかったこと。
学校の前。嫌な空気。勇気を振り絞って一歩踏み出す。
「おぉ、夏織じゃん!」
体全体に電気が走ったようだ。振り返れずにその場に立ち尽くす。足も動かない。
「何固まってんだよっ」
あっ!私を蹴る心ちゃん。その勢いで私は一人転ぶ。恥ずかしいわけじゃない。だって今ここにいるのは私と心ちゃん達だけ。助けてくれる人も誰もいない。
「結局一人じゃなんもできないじゃん!界君だって今、助けに来てくれるわけないからね?」
このままじゃやられっぱなしだな。唇を噛み締めて心ちゃんを…心ちゃんの瞳の奥の方を覗き込む。
「ごめんなさい」
きっとこれは私の本心じゃない。でも心ちゃんはなぜかそんなに悪い人ではないと思うんだ。たしかに私を沢山いじめてくるけどなにか理由があるのかもしれない。
「思ってもいないこと口に出さないでよ!どうせ心達が悪いとか思ってるくせに」
「心ちゃん達が悪いって思ってるよ。でも、きっと何かが違うから。私は心ちゃん達が絶対悪いとは思えない」
「意味わかんないんだけど」
「私は初めてあった時、素直に心ちゃんっていい人だなって思った。だから、今だって何かあるからやってるんじゃないかって。あの頃から私は心ちゃん達が好きだったから。もちろん華奈のことも好きだから。好きって気持ちはどんなことでもすぐには変えられないのかもね」
心ちゃんの目を逸らさずずっと見つめて思ってることを言う。
「なによ…なんなのよ…夏織のばーか…本当にいなくなっ…ちゃ…」
心ちゃんの声が少しずつ小さくなっていく。そして、涙が溢れだしてきている。
「ごめんなさい…心も…夏織のこと…大好きなのに…」
私は顔をぐしゃぐしゃにして泣いている心ちゃんを包み込んだ。
「私もごめんね…大好きだよ…」
そっと呟いて。