「その願い、叶えてやろうか?」

その声に驚いて僕は後ろを振り返る。

すると、そこに人影はなかった。

「なんだ。空耳かぁ。それにしては、やけにはっきりしてたような?も、もしかして、幽霊?!たた、確かにここはお墓…。」

一人でガクガク震えていると。

げしっと何かに足首を蹴られた。

「ひぃっ!」

転けそうになったが、慌てて体制を持ち直す。

「お墓で転んだら呪われるらし…」

「話を聞け!小僧が!」

声は自分の足元からした。恐る恐る足元に目を向けると…。

「猫?」

そこには美しい猫の姿があった。

灰色の綺麗な毛皮にラピスラズリのような青い瞳。

「まぁさか、猫が喋るわけないかぁ〜」

「そのまさかだ。まぁ、ただの猫ではないがな。」

鼻をツンと上に向けて、猫は言う。

翠の顔から段々と血の気が引いて言った。

「ひ、ひぃ?!動物のお化け?!」

「何故、そうなる?!」

猫は呆れたように言った。

今度こそ、翠は尻餅をついた。

「あっ、転んじゃった…。の、呪われる…。いや、既に目の前のこの猫は幽霊なの?!だとしたら、僕はもう呪われて?!」

一人で喋り続ける翠に猫は

「騒がしい奴じゃのう。少しは落ち着かんか。」

「この状況で落ち着けるかぁ!」

翠は猫にすかさずつっこんだ。

猫はフーっとため息をつくと言った。

「美希も何故こんな騒がしい奴を…。」

「今、美希って…。」

翠はその名前が出た途端真顔で聞き返す。

「何じゃ、いきなり。情緒不安定か。」

「美希のこと、知ってるのか?」

「貴様の過去に戻りたいという強い感情に呼び出されたのじゃ。お前の願いやその中心にいる想い人くらい知っておる。」

なんか、さっきの発言とあってないような。

再び翠が口を開こうとすると、遮るように猫が話し始めた。

「まず、私の自己紹介から始めようか。私は時間の神。クロノス。先の通り、お前の過去に戻りたいという強い感情に引き寄せられ今ここにいる。この猫の姿は仮の姿。本来の姿でもっとちゃんと話がしたい。それ故、貴様の家へ連れていけ。」

当たり前のようにいう自称時の神。

ここでは、面倒臭いのでクロノスと呼ぼう。

(はぁ?こんな怪しいやつを部屋に入れろと?!大体、神かどうかも分からないのに…。今のところ、ただの喋る気持ち悪い猫じゃないか。)

そう心の中で愚痴った。

すると、猫は不愉快そうに顔を歪めた。