北の方は、つい、口を開いてしまった。

「あたしは、橘久光の北の方の、清原厘子よ。」

やはり、と藤の君は悲しそうにしている。

「貴女様にも、お答え願いとう御座います。」

北の方も、つい、深堀してしまう。

「私のことは、言えない。ただ、ひとつ、言えるのは、知らない方が幸せな事柄は、この世に溢れていること。」

藤の君は紅の映える唇に人差し指を添えて、しっ!と言う。

「理不尽ね。あたしはお教えしましたのに。」