「可哀想ね、久光。」

「仕方がありません。元々、北の方様は、裕福な受領の出自で御座います。金銀に釣られたお父君が、無理に結婚させてしまったのですわ。」

藤の君は少し、悲しげな眼差しで外を眺めていた。

「あの人は、可哀想。」


その夜、北の方は夢をみていた。
霧がかっていて、何も、見えない。

(誰か、いらっしゃいますか?)

北の方は、そう言った。
誰も何も、答えない。

(もどかしいったら、ありゃあしないわ!霧が晴れてくれたら!あたしは!どんなにいいか!)