「宜しい。では、話しましょうか。」

倭はとても疑い深いのである。昔、何人もの女房や家人に騙された過去を持つからだ。

「このお邸には、一人の女君が住んでいるのよ。その方は、恐らく、渡来系の方ね。漢文は読めるのだけれど、仮名はどうにも駄目らしいわ。」

「珍しき御方ですわね。」

「そうね。だから、若君はそれに文を書かれる時は、真名(漢字)で書いていられるのよ。」

「若君………」

「でも、其の人は物語を聞くのは好きらしいわね。だから、物語を読んでやって。そしたら、仮名も分かるのではなくて?」