何時だったか。
今では、物語として伝わっている程、昔の話と聞いている。

千年の都、平安にて。

一条に位置する、広大な邸があり、ある方の別邸として栄えていたそうな。

そのお邸の持ち主である、齢十四、十五程の若君が、本邸より来ていた。

「静かでいいよ、此処は。本邸は五月蝿いったら。」

若君の諱(本名)は久光といった。
若いが、年の割には聡明な人であったので、たいそう人気があった。

「そうですわね。近頃の女房は、端ない者も多いのです。騒いで、仕事もしない、まぁ、能無しですわ。」

口厳しく毒舌を披露するのは、久光付きの女房、倭(やまと)である。