「……オース…だ。」



聞きなれない言葉に、少女は顔を上げた。




「え…?」



「名前…は、オースだ。」




怪物は、少し照れながら自分の名前を名乗った





「オース…オースっ……やっと…やっと名前を聞けた……オース…素敵な名前ね」





少女はとても嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


こんなに嬉しい気持ちで笑ったのは久しぶりだった。




オースも、同じだった。


まさか少女は自分のことを嫌いではなくむしろ興味を持ってくれていて、

数百年ぶりの幸福を味わった





「……ありがとう。君は…」





名前を尋ねると嬉しそうに答えた




「マユ!マユよ!えへへ」





「マユ…いい名前だ」




たくさんの木々に囲まれた教会の裏庭で、




大きく素敵な思い出ができた。







ここに長居はできない。


街の人がきっと追いかけてくるだろう。




「行こうか」




オースが手を差し伸べた




「うんっ」





マユは嬉しそうに自分の手を重ねた。









愛されていなかった?いいえ、愛されていました。




家族という、かけがえのない存在に。


例えそれが、偽りであっても。


酷く残酷な出会いだったとしても。


冷たい別れだったとしても。




世の中には、変な人もいるものです。


必死で逃げたのに、捕まってしまった者を、もう1度、遠くへ逃がしてくれた者。

真実を知ってもなお、手を差し伸べてくれる者。

こんな自分を、愛おしく思ってくれる、沢山の者。



世界はとても狭い。でも、とても広い。