小さな薄汚れた靴を履き直して、森を歩く
「かっ……かみ…さまー…」
なれない足取りで、数時間ぶりに出す大きな声を森に響き渡らせながら、あの"神様"を呼んだ
「かみさまー…!」
もう1度見たかった。あの、綺麗な、素敵な。、
でも、聞こえるのは葉がざわざわと擦れる音と、歩く度にポキッポキッっと折れる小枝の乾いた音だけ
「……かみ…さま………いない…まるで…あの時みたい…おばあちゃんがいなくなったあの日…みたい…」
神様は現れなかった。
森の中で、誰かの名前を呼び、探す。あの時と重なる。
「……っう…」
刹那、ぽろぽろと涙が溢れ、無限に続くふかふかの葉っぱの絨毯の上でしゃがみ、ひとり涙を流した
「うぅ……」
すると、ガサッと遠くから木の揺れる音がした
「かみ…さま……?」
「……なにしてんの。」
木の揺れた方向からは別の方から声がした
「……ぁ」
それは神様でもなく、おばあちゃんでもなく
冷たい視線を送る母だった
「…すぐ戻ります」
「はぁ…さっさと行けよ」
それからというもの、母や父からの、辛く苦しい暴力が始まった
私は、やっぱりなにか悪いことをしたのではないか
なぜ私は殴られているのか
なぜ私はこんなに痛い思いをしているのか
そんな考えばかりが彼女の頭を回った
母は、仕事から帰るとすぐに食器や家具を壊し、マユに暴力をする
父は、毎晩マユのベッドに忍び込んでは、とても痛い思いをさせられた。
なんで生きているんだろう。
もう、涙を流す気力も無くなり、やがて彼女は、本当のからっぽのお人形になってしまった。