あの人図書委員だったんだ…

言われてみれば、カウンターの奥の準備室っぽい部屋から出てきたもんなぁ。




「…ねぇ、先生もう行ったけど?」



「え!?あ、本当にありがとうございました!」




私はバッと立ち上がって先輩に頭を下げた。



あぁ、きっと図書室の隅っこにすわったせいでスカートにほこりついちゃっただろうな。


まだ新品なのに…




「…それで?なんで1年がこんな時間にいるわけ?」


……あーあ、忘れてくれたと思ったのに…




ここまでしてやったんだから話せ、とでも言いたそうな顔をする男の人に、私は全部話す決意をした。


まあ、そこまでバレて困るような内容でもないし…




「私、午後はずっとこっそり美術室に行ってたんです。美術室というか…美術部に」




軽く説明すると興味無さそうにふーんと言う男の人。



「美術部ね…でも今日って部活体験ないよね?」




「ちょっといろいろ手続きが必要らしくて…」




「あぁ、もしかして賞とかコンテストとかそういうやつ?」




そういうやつって何…?




「春の美術コンクールに作品を出品するのに、ちょっとした手続きが必要で…

知り合いの美術部の先輩に強制的に残されました」




「へぇ、ってことは中学も美術部だったんだ。

全然そんな感じないけど。」




「う…よく言われます」




美術部どころか不器用そうとか、それはもういつもひどい言われ用だ。




これでも中学の時は、画家とか目指して本気で絵をかいてたんだけどなあ。




「…で、君の用事は何だっけ?」




「あ、そうだった!!忘れてた!!走ってたら下駄箱の場所が分からなくなっちゃって」




「…方向音痴なの?ここは別棟だから下駄箱は真逆の方向だよ。向こうの本校舎。」




「えっ!?うそ!!ありがとうございます!!」




早く帰らなきゃ!と私はUターンしてドアに手をかけた。



…あ!




「あのっ…私、1年E組の新堂茜(しんどうあかね)っていいます!!

…も、もしよかったら先輩の名前、聞いてもいいですか?」




「…2年E組、有馬雄飛(ありまゆうひ)」




「あ、有馬先輩…今日は本当にありがとうございました!!

近々お礼の品を持ってくるので…失礼します!!」



私は今度こそ図書室を出て、先生にバレないように全力で走って帰った。




有馬先輩…か。いい人だったなぁ…