* * *

ブーッ、ブーッ…

「…もしもし」

『もっしもーし!オレオレ。坂下陸がどうかした?』

「…いや」



茜が帰って静まり返った部屋に響いた着信音。

電話の相手は陽だった。



『まーた茜っち絡み?まあ俺はお前らのこと変に詮索しようとは思わないけど…そろそろ雄飛も次に進んでいいんじゃない?』

「…あぁ」



頭では分かっているつもりだ。けど…先に進むには、まだ勇気が足りない。



『坂下陸はサッカー部のエース。茜っちとその親友、古賀めぐみと坂下陸の3人は家が隣同士の幼なじみ』

「…そう。ありがとな」



電話を切って、俺は枕に顔を埋めた。

“ サッカー部 ” 、ねぇ…



その言葉を聞いて、一瞬忘れたい過去の思い出が頭をよぎった。


『ユウくん!』



風になびく、艶のある黒髪。俺のことをユウくんと呼ぶあの優しい声。


…高校生になってからあいつのことを思い出すことは減っていた。

それは、多分…



『有馬先輩!』



あいつが…新堂茜が、いつも一緒にいたからだと思う。



《 From 茜 》

市販の風邪薬、ビニール袋に入ってるので飲んでください。あと、りんごゼリーを冷蔵庫に入れておいたので薬を飲む前に食べてください!
お大事に



「はぁ…」


枕元にスマホを置き、もう一度寝るためまぶたを閉じた。








「…ダメなんだよ、俺は」