「人が風で寝込んでる時に、お前はこっそり俺の絵を書いてたわけ?スケッチブックにでかでかと。許可もなく?」

「あ、う…お…」



そう、スケッチブックに描かれていたのは眠る俺の姿。


当然、これを描けるやつはここには1人しかいない。



「…へぇ、面白いじゃん」



何を言われると思ったか、茜がギュッと目を瞑って俯いてしまうから俺は茜の頭に自分の手を乗せた。


ポンッ…


「へ…?」



これには怒られると思っていたであろう茜も目を丸くして驚いた。

…おもしろい、こいつ。



「俺を練習台にしてるわけだろ?美術の」

「え、っと…一応、人物画の練習…です…」



茜は恥ずかしそうに頬を染め、再び俯いてしまう。


「…いいよ、練習台にして」

「…はい?」

「どうせいつも暇してんだろ?準備室にいるとき」


準備室にいる約2時間、基本的に茜はいつもぼーっとしてるか俺を見てるか、その辺の風景を描いている。


俺は本を読んでいることがほとんどだし、だったら俺を練習台として使えばいい。



「ただし、条件」

「え?」


「描いた絵は全部俺に見せること」



そう言ってにっと笑うと、茜はぱあっと表情が一転、怯えるような顔から笑顔に変わった。

「やったぁ!!!」


…なんだろう。こいつの笑顔を見ると癒されるというか、優しい気持ちになれる気がする。

考えてることが全部顔に出ているからかもしれないけど、最近の俺はそれを見ているだけで満足できる。



「じゃあ明日から早速先輩の絵を描きますね!!」


なんて笑顔で言われたら、断るものも断れない。

そんな俺は意外と甘いのかもしれない。