「秋ちゃんブラウスありが…」
バスルームから出てきた茜が言い終わるより先に、駆け寄った相沢さんが茜のことを抱きしめる。

「…っ、へ?雪さん!?」
突然のことに一瞬驚いた表情を見せた茜も、相沢さんの姿を確認して顔を綻ばせた。

茜に触れる指先は宝物を愛おしむように、見つめる瞳はどこまでも優しい。
この人は心から茜のことを大切に思ってくれているのだと、素直にそう感じられた。

こんなの見せられたら何も言うことが出来ない。
俺が入る隙間なんて1ミリもなさそうだ。

…ただ、2人とも俺のこと視界に入ってなさすぎだろ。

「あの、見つめあってるとこ悪いんですけど」
2人の世界を壊すのは申し訳ない気もしたけれど、さすがにちょっとむかついて。すっかり忘れられた自分の存在を主張するように少し強めな口調で割って入った。

「あ、ごめん…!」
気付いたようにバッと相沢さんから身体を離して茜が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
そんな茜を安心させるように微笑んでみせた。

「ブラウスそこに干してあるから」
「あ、うん」
「携帯はそこ、テーブルの上ね。電源は切ったままだから自分で付けて」
「あ、うん」

ポカンと口を開けた茜から視線を横へと移す。

「あと相沢さん、テーピングとかってできます?」
「テーピング?あぁ、なんとなくなら」
「ならあとで茜にしてやってください、左足を捻挫しているので。包帯はそこに」
「あ、はい」
「じゃあ、俺は帰りますのでごゆっくり。この部屋は好きに使って下さい」

連絡事項を伝え、椅子に掛けていた上着を羽織った。
…あくまで平然を装って。