ロビーのふかふかのソファに座りながら、コンシェルジュの人と話をする秋ちゃんに目を向ける。

こんな豪華なホテルにいても全く違和感のない幼馴染みの姿は堂々としていて、それどころか彼のその容姿はさっきからそばを通り過ぎていく女性たちの目線を引き付けている気さえした。

「お待たせ」
「あ、うん」

コンシェルジュの彼ともなんだかすごく親しげにしていたし、そんなにもこのホテルをよく利用しているのだろうか…そんなことを考えながら立ち上がると、私の疑問を見透かしたように秋ちゃんの口が開く。

「あいつ、大学の後輩なんだ」
「あ、そうだったの?」
「あぁ。仕事に煮詰まったときとか、気分変えたくてたまに世話になってる」
「なるほど、って…あれ?私、今考えてたこと口に出てた?」
「顔に書いてあるんだよ、茜は」

ははっと笑いながら、秋ちゃんが肘を軽く曲げた状態の腕を目の前に差し出した。

「え?」
「え?じゃなくて、ほら。抱っこされたくなかったら掴まれ」
「っ!」

やってくれていることは優しいのにいちいち言い方が意地悪な幼馴染みの腕をおずおずと掴んで立ち上がる。

「いい子だな」
「ちょっと、さっきからからかいすぎじゃない?」
「そうか?」

キッと横目でにらんで見せるけれど、当の本人には全く効いていないご様子だ。

だけど一緒に歩いてくれる秋ちゃんの歩幅はいつもよりも随分小さくて、ゆっくりで。
気遣ってくれているのが伝わってきたから「昔よりなんか意地悪だよ」って言い返そうとした言葉は飲み込んだ。

そのうちに乗り込んだエレベーターは24階で止まり、私たちは1072号室の扉の前にたどり着いた。