それから私たちは無事に打ち合わせを終え、帰路についていた。

「なんか雨降ってきそうですね」
「もう少しもってくれるといいけど」

午前中晴れていた空は、徐々に灰色の雲に覆われ始めていた。

そういえば午後は崩れると言っていた朝の情報番組の天気予報コーナーを思い出しながらふと見上げた視線を戻したとき、見慣れた車が視界に入った。

え、あれって…?

次の瞬間、見えた光景に反射的にバッと視線を逸らした。

「先輩?どうかしました?」
「っ、ううんなんでもない」

そして反対方向へと身体を向け足早に歩き出す。頭の中に浮かんだ嫌な予感を振り切るように。

「え、ちょっと先輩!?」
急に速度を上げた私の歩調に追いつくように、美月ちゃんも慌てて速度を上げた。

「先輩、急にどうしたんですか!ていうかなんか顔色悪いですけど大丈夫ですか?」

少し歩いたところで交差点の信号に引っかかり、美月ちゃんが心配するように私の顔を覗き込む。

「うん、ごめん大丈夫。ありがとね」
「…」

動揺が伝わらないように必死で気持ちを落ち着けて笑顔を作ったけれど。
大きく音を立てる心臓の音はいっこうに収まらず、心の中をかき乱していく。


私が目にしたのは…

スラっとした長髪の女性の腰に手を回して車の中にエスコートする雪さんが、女性と2人で車の中に消えていく光景だった。