極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~

「すっすみません…!」

一気に意識がはっきりして、急いで鞄の中からハンカチを取り出す。
慌てて目の前の人のスーツについた雫を拭おうとしたけれど、伸びてきた手がそんな私の動きをゆっくりと制した。

「大丈夫だから気にしないで。それより君の方こそ…」
「いえ、私は全然!全く問題ありません!」
焦ってまくしたてるように話す私の姿は、どうやら彼を苦笑させているようだ。

あぁ、穴があったら入りたい…

「あ、そうだ。ちょっと付いてきて」
数秒の間のあと、何かを思いついたように私の手から空になったグラスをそっと取り上げた彼はそれを近くにあったテーブルの上に置いた。

「え、あの?」
「悪いようにはしないから」
それはなんとも怪しい台詞なのに、彼が綺麗すぎる顔立ちで優雅な微笑みを浮かべるものだから、抵抗するタイミングを逃してしまう。

流れるような仕草とあくまで紳士的な強さで掴まれた手首を引かれるまま、私は歩き出していた。
導かれるままホテルの赤い絨毯の上を進んでいく。

そうして包み込まれるようなその手をなぜか振りほどけないままたどり着いたのは、長い廊下の先にあった大きな部屋の前だった。