トーストの焼けた匂いと、コーヒーポットからたてたばかりのほろ苦い匂いがたちこめるリビングのテーブルの上には、湯気を立てる美味しそうな朝食が用意されていた。

「これ…全部相沢さんが作ったんですか!?」
「あぁうん。あり合わせだから簡単なものしか作れなかったけど」

そう言って微笑むと、流れるような仕草で椅子を引いてくれる相沢さんに導かれるように席につく。

「卵、甘いのとしょっぱいのどっちが好きかわからなかったから両方作ってみたんだ、好きな方食べて」
「どっちも好きですけど…じゃあ甘い方で」

差し出されたお皿を受け取りさっそく卵焼きを口に入れると…口の中にふわっと優しい甘さが広がった。

しょっぱい方も食べてみたいな…

「…こっちも食べる?」
「はい!…って、あ…」

返事をしたすぐあとで少し恥ずかしさがこみ上げてきたけれど、元気よく答えてしまった手前引き下がれず思考を巡らせていると…すっと目の前に手が伸びてきて。

「はい、あーん」
「え!?」
「ほーら冷めちゃうから、あーん」
「っ、あー…ん、おいしい!」
「よかった。喜んで食べてもらえることほど、嬉しいことはないよ」

なんだか相沢さんの前じゃわたしほんとに子供みたい…

「どうしたの?茜ちゃん」
「いや、こんな風に誰かに甘やかしてもらうの久しぶりだなって…」

この歳にもなると職場でもメインになって企画を進めたり、最近は後輩の教育したりすることなんかも多かったからなぁ…

「ふふ、俺には存分に甘やかされて。その代わり…俺のこともたまには甘やかしてね」
「…っ!」

私よりも何倍も大人な相沢さんを甘やかせることなんて果たしてあるのか…あまり自身はないけど、出来ることがあれば全力で頑張ろうとそっと心の中で誓った。