「はぁー…」

この歳になっての全力疾走はなかなか辛い。
あれから急いで家に帰って用意をして、そのままダッシュで電車に乗り込んだ。

やっぱり運動しないとだめだな…
そんなことを考えながら駆け込んだ会社のエントランスで迎えてくれた、見知った姿に声を掛けようと口を開く。

「おはよう、茉優。昨日連絡出来なくて…」
「茜、お客様!」

ごめんね、そう言い終えるより先に言葉を重ねてきた彼女の姿は、会社の受付嬢としてではなく普段の友人としての顔だった。

…そしてその意味を、私は3秒もしないうちに知ることとなる。

「相沢さん、なんでここに…」
「ああ、はいこれ。なかったら困るだろうなと思って」

目を見開いたまま固まる私の元に歩み寄ってきた彼が差し出したのは、たしかに無いと困るモノで。

「すぐに会えてよかったよ」
「社員証…ありがとうございます」
「今日ここで用事があったのも運命かな…なんてね」

一見キザなそんな台詞をもすんなりと許してしまうくらいには、目の前にいる彼の容姿はやはり整っている。

って…ん?用事?

「相沢社長!」
疑問符が頭の上に浮かぶのと同時に耳に届いたのは、聞き慣れたよく通る声と軽快なヒールの音。音の主は上司である水野編集長だ。