「彼女は私の大切な人です」
そう言って微笑み、私の腰を優しく引き寄せる彼はさっき出会ったばかりの名前しか知らない人。
そもそもどうしてこんなことになったのかというと…――話は数時間前に遡る。
「おまたせ!シャンパンもらってきたよ」
「あ、ありがと茉優」
綺麗に手入れが施されたロングヘアをなびかせながら笑う茉優からグラスを受け取り、隣でうなだれる夕の姿に2人で苦笑をこぼす。
「やっぱり私もうダメかも…」
「まだ来たばっかりなんだから!もうちょっと頑張ってみようよ!」
茉優にバシッと背中を叩かれても、夕の背筋はなかなか真っ直ぐには伸びないらしい。
「そう言われてもみんなものすごいキラキラしててさ、目すらまともに合わせられないんだもん。はぁ…帝様に会いたい」
「こら!2次元に恋してる時間なんかもうアラサーの私たちには無いって言ってるでしょ!」
ふわふわした見た目とは正反対にハキハキものを言う茉優と、抜群のスタイルに黒髪ショートがよく似合っているクールビューティーなのに2次元に恋をしている夕。
そんな彼女たちと一緒に、私、柏木茜が訪れているのは…お食事会という名の婚活パーティーだ。
大学時代に意気投合した2人とルームシェアを始めてから早数年。
女3人でいるのはわりと…というかかなり居心地がよく、流行りの恋愛ドラマでも女は3人セットなことが多いのが頷ける年齢になってきていた。