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「…というわけなんだけど」
「なるほど」
「大丈夫っていうのは便利な言葉なんだとつくづく思ったよ」
「まぁ日本人の典型的な常套句ですからね」

沈み始めた夕日が差し込む社長室。
たった今受信したメッセージを見ながら、思考を巡らせる。

「今日は友達と予定がある…ですか」
「気にしすぎなんじゃないかと自分でも思うんだけどね」

茜にプロポーズをしてから、約3週間。一緒に住んでいた彼女たちはバラバラに家を探すということになったらしく…同棲を含めた自分たちの諸々の準備は、茉優ちゃんと夕ちゃんの予定がきちんと決まり次第本格的に始めようということにしていた。

「そういえば、こんな話を聞いたことがあります」
不意に資料整理をしていた手を止めたユウが顔を上げ、なにかを思いついたように口を開いた。

「人間は幸せになりたいと思う反面潜在的に幸せになることを怖れる生き物であると。幸せのその先にある不安に意識が向けられてしまうのだとかなんとか」

「なんなんだその不吉な話は…」
思わずデスクに肘をついて頭を抱えると、コホンと咳払いをしたユウが「ですから」と言葉を続けた。

「茜さまのことですから、また1人でいろいろと考えていらっしゃるのでしょう」