…思い返せば、何度か思い当たることはあった。
初めて違和感を感じたのは、夕食を一緒に食べるために待ち合わせをした夜。

「茜、お待たせ…」
声を掛けると、誰かと電話をしていたらしい彼女は不自然なほどに慌ててそれを切ったように見えて。

「ごめん、電話中だった?」
「大丈夫です!その…ちょうど終わったところだったので」
「…そう、ならよかったけど」
「それよりお腹空きましたね!」

このときは気のせいかもしれないと思い直し、とくに気に留めることはしなかった。

…のだけれど。
その週末に茜がうちに泊まりに来た日。

「茜?」
風呂から上がってリビングにいた彼女の背中に声を掛けると、その肩はびくっと大きく揺れて。

「あぁごめん、びっくりさせちゃった?」
「いっいえ!大丈夫です」
笑顔を浮かべる傍ら、予想した通り彼女はさりげなく携帯電話を伏せた。

「…なんか様子変じゃない?」
「へっ!?そんなことないですよ!」
「…声、裏返ってるけど」
「気のせいですよ、あはは」

そのときは追及するか否か思案している最中に掛かってきた仕事の電話に遮られ、そのままうやむやになってしまったのだった。