「この家で一緒に暮らさないか?…俺と、結婚して欲しい」
「…っ!」

目の前で片膝をついた雪さんが、私を見上げて微笑む。
差し出された箱の中で輝くのは、一粒のダイヤをつけたシンプルだけど品のいい指輪だ。

思わず込み上げてくる気持ちに両手で顔を覆った。上手く出てこない言葉の代わりに、一筋の涙が頬をなぞるように落ちて行く。


――こんなにも彼が、私にとって大切な人になるだなんて思ってもみなかった。


どこからが偶然で、どこからが運命だったのか。
もしかしたらすべてが偶然で、すべてが運命だったのかもしれない。

なんてわりと真剣に考えてしまうくらいには、私は彼に恋をしている。

そして今胸にあるのは…この恋はきっとこれから愛に変わっていくのだろう、そんな予感。


「…はい、喜んで」
やっとのことでそう言うと、目の前の愛しい人が柔らかく笑う。その笑顔は、今まで何度も目にした私の大好きな表情だ。

これからもずっとその笑顔の傍にいられる、そんな幸福を思う。
頬を伝う涙を拭ってくれる優しい彼の手のひらに、薬指に幸せの証をつけた手をゆっくりと重ねていった。



FIN