再びカードをかざした雪さんが、扉を開ける。
促されるまま足を踏み入れた部屋の中はとても広くて、リビングらしき広間を囲むように配置された窓からは輝く夜景を一望できた。

「あの、ここは一体…」
「新居だよ、近いうちに引っ越そうと思ってるんだ」
「なるほど…すごく素敵な所ですね」
「…そう、よかった」

ん…よかった?
少し安心でもしたかのように囁かれた最後の言葉が、頭の中で小さく引っ掛かる。

「ちょっとこっちに来てもらってもいい?」
「あ、はい!」
けれどそれも、一歩先をいく雪さんによって言葉にならないまま次へと進んでいく。

「どうぞ」
リビングから伸びる階段を上がった先にあった大きな扉を開けた雪さんは、扉を背にして立ち私を先に促した。
…そして足を踏み入れた瞬間、真っ暗な部屋がぱっと明るくなる。

「…っ」
部屋中に敷き詰められた花びらの絨毯。
その甘い香りの中心に置かれたテーブルの上には…真っ赤な薔薇の花束と、小さな一つの箱。