「なに女性みたいなこと検索してるんですか」
「っ!おま、ユウ…頼むからもうちょっと気配を強めに出してくれ」

ある日の夕暮れの社長室。

いつの間にか背後に立っていた秘書は、後ろからパソコンの画面を覗き込みながら見事な皺を眉間に寄せていた。

「気配は出しています。社長が夢中になっていただけでしょう」
「…」

ちらっとこちらを一瞥したユウは、再び画面に視線を戻す。
夢中になっていたのは否定できないし、こいつに言い返してもいいことはないからもう黙っておくことにした。

「しかし…男性からの一目惚れが結婚に至りやすく、離婚率が低いというのは意外ですね」
「ああ、だよな」

【男性の一目惚れから始まった恋愛は上手くいく場合が多いらしい】

そんなネット上のコラム記事を、いい歳した男2人で見ているのはよく考えればわりとシュールだ。
ていうかユウが来るまで一人で見てたんだよな…俺。

「一目惚れでもしたんですか?」
「あー…わからない。わりと無意識に検索かけてたから」
「まったく…33にもなって仕事中に謎の無意識な行動なんてとらないでください」

はあ…とユウが遠慮のないため息をつく。

仮にも俺はこいつの上司だと思うんだが…まあ、今に始まったことでもないか。

「俺…やばいのか?」
「…知りません。仕事してください」

そうして容赦ないユウの言葉に促され、渋々パソコンの画面を落とすのだった。