◇◇◇

「あれ…里香さん?」
仕事終わりにやってきたのは焼き鳥が美味しい馴染みのあるお店。
美月ちゃんと一緒に通された個室に向かうと、そこにはこの居酒屋すらお洒落なレストランに変えてしまいそうなオーラを放つ里香さんの姿があった。

「誘ってみたら、なんと来てくれました」
「お邪魔してます」
天下の大女優の向かいから軽い調子でそんな台詞を口にした水野編集長の顔は、もうすでにほんのりと赤い。

「お二人、そんなに面識ありましたっけ?」
「「いや、全く」」
「初対面よねー」
「ねー」

見事にハモってみせてから、にっこりと微笑みを交わす人生の先輩方。
その光景はもう十数年来の友達のようである。

…ばれようならちょっとした騒ぎにでもなりそうだ。

「2人はなに飲む?」
「カシスオレンジお願いします」
「あ、私はとりあえず生で」

編集長のおかわりと一緒にとりあえず飲み物を注文し、上着を脱いで腰を下ろす。

「そういうところ、茜先輩親父ですよね」
「美月ちゃんひどい」

そんな厳しい突っ込みを受けた飲み物を受け取り、持ってきてくれた店員さんが出て行ってすぐのことだった。

ん?なんか外、騒がしい…?

まさか里香さんのことがばれたのではないか、そんなことを考えて一人で焦っていると…ゆっくりと個室の扉が開いて。

「遅くなってすみません」
「そこで偶然会ったので、一緒に来ました」
爽やかな笑顔を浮かべる雪さんと、爽やかな笑顔を装った槙くんが2人揃って登場した。

いつの間に集まったのか、開いた扉の向こうで2人に羨望の眼差しを向ける数人の店員さんの様子を見て、騒がしくなった原因が2人であることに気が付く。

まぁ確かにイケメンが並ぶと、絵になる。

そうしてなぜか後光が見えるような2人を加えて、なんとも不思議な飲み会…もとい、槙くんの送別会が始まったのだった。