「あぁ、じゃあまた」

話を終えた雪さんが、耳に当てていた携帯電話をそっと机の上に置く。

雪さんの口から過去の話を聞いている途中に掛かってきた、1本の電話。
着信を知らせる画面を見て電話を切ろうとした彼の手を、私が止めた。

「…ごめんね、話の途中だったのに」
無意識にその所作を見つめていた私に、雪さんが少し戸惑うように眉を下げて微笑む。

槙くんとの出来事、それに里香さんとの関係。
話を聞いていて思ったのは、雪さんにとっても里香さんにとってもお互いが大切な存在だったのだということ。

「私が出てって言ったようなものじゃないですか」
「…でも」
「私、雪さんのことが好きです」
「え?」

唐突な私の言葉に一瞬大きく見開かれた瞳を、見つめ返す。

「雪さんは?」
「あぁもちろん…」
「じゃあ大丈夫です!って、何が大丈夫なのかよくわからないですけど…」
「…」

あははと笑ってみせた次の瞬間、肩に重みを感じて。同時にさらさらの髪が私の首元をくすぐった。

…えーっと?

雪さんの表情は見えない。ただ、触れている部分から確かな熱が伝わってくるだけだ。