耳に当てた携帯から聞こえてくる呼び出し音。

やっぱり出ないか…

規則正しいその音が数回続いて、諦めて終話ボタンを押そうとした時だった。

「…里香?」
聞こえたその声に名前を呼ばれて、それだけで心臓の音が一気にスピードを上げた。

「電話番号変わってなかったんだ…」
「ははっ、里香こそ」
電話口でククッと喉を鳴らして笑う彼の笑い方は、再びあの日の記憶を呼び起こして。

「急にごめんね。っていうか今まで…」
「…今日は久しぶりに里香と会えて嬉しかったよ。元気そうで…安心した」

私の言葉を遮ったのは、先回りして包み込んでくれる優しさだと思った。
「嬉しかった」。その一言が、私の中の不安だった気持ちを一瞬で拭い去っていく。

「私も…会えて嬉しかった」
こんなに素直に自分の気持ちが口から零れたのは、いつぶりだろうか。
なんだか思いが溢れるみたいに感極まって、思わず泣きそうになるのを必死にこらえる。

忘れたくても、なかなか忘れられなかった。
今までずっと引きずっているだとか、縛られているだとか、そういうのじゃなくて。

…いつか笑って、こうやって話ができる日がくればいいのになって、ただ単純にそう思っていたんだ。