「これ、この前と違いますね。なんていう花なんですか?」
「あぁこれはネリネっていうの。欧米ではダイヤモンドリリーっていうらしいわ」

子どもの頃に見たヒガンバナに形がよく似たその花は、淡いピンク色をしているせいか…その印象は優しい。

「へぇ、呼び名が2つもあるんですね。初めて聞きました」
「私もこの前初めて知ったのよ。…あそこにいる柏木さんが持ってきてくれたんだけど」

水野編集長の視線を追うように顔を向けた先には、何かの資料を眺めながら話をする2人の女性がいた。
けれど…なんとなく、真面目そうな方の女性なんだろうと直感で思った。

彼女の部下らしきもう一人の女の子は一般的には可愛いといわれる部類なのだろうけど、目の前の花とは結び付かなかったから。

「髪を束ねている女性ですか?」
「そうそう。ここの花の手入れしてくれるの、私以外は柏木さんぐらいだから」

数秒だけ向けた視線の先で彼女の表情は驚くほど変化するものだから、少しの間、目が離せなかった。

真剣な表情で隣の女の子の話を聞いていたかと思ったら、何やら身振りを交えながら熱く何かを語りだし。
もう一度眉間に皺を寄せたあと、何かを閃いたようにぱっと花が咲くみたいに笑った。

真面目な印象は決して地味だとか、そういう意味ではなくて。
裏表のなさそうな笑顔を浮かべる彼女は…むしろ魅力的だと思う。

「ちなみにこの花ね、花言葉は【また会う日を楽しみに】っていうんですって」
「素敵ですね」

そんなとき隠れていた太陽が顔を出し、窓から陽が差し込んで。
光に照らされたネリネの花びらが、輝いて見えた気がした。