「雪?」
今となっては遠い昔の記憶の中。
だけど忘れたことがなかったその姿を見つけて…気が付いたら、声を掛けていた。

何十年ぶりに会うその人の瞳を、真っすぐに見上げる。
あの頃はさほど変わらなかった私との身長は、頭一つ分ほどの差が出来ていた。

これだけ久しぶりに会ったというのに、なぜ最初に思い浮かんだのがそんなことだったのかは自分でもよくわからなかったけれど、それ以外に変わった部分が見つからなかったかもしれない。

心地良く響くテノールのその声も、笑うと穏やかに細められるその瞳も、他人を魅了するその雰囲気も。


「…」
「なんか悩み事か?里香」
「え?」
「いや、さっきからずっと携帯眺めて唸ってるから」

マネージャーである桂ちゃんこと三澄桂一郎に声を掛けられ、はっとする。
1日の仕事を終えて自宅まで送ってもらう車の中、バックミラーには不思議そうな表情を浮かべる桂ちゃんの顔が映っている。

「今日、久しぶりに…友達に会ったの。連絡しようか迷ってて」
「連絡くらいすればいいんじゃないか、友達なんだろ?」
「そ、そうよね…」

桂ちゃんの最後の一言が心に引っ掛かって、思わず言葉がつっかえた。
再びちらっとミラーを確認し、特に気にする様子もないその姿を見てとりあえず心の中で安堵する。