「…っ!」
「あぁこれは失礼致しました」
「ったた…いえ、こちらこそ…」
「めずらしい方の姿があったので、つい」

急に立ち止まった背中に思い切りぶつかって、じんじんと地味に痛む鼻をさすりながらユウさんの後ろから顔を出す。

あれ…?

「…雪さんと、里香さん?」
すぐ目の前に見えた雪さんの隣には、彼と笑顔で話す里香さんの姿があった。

良く知る2人が私の知らない空間の中で話をしているその光景は、なんだかとても不思議な感覚で。
さらには、昨日今日知り合ったような浅い関係ではない様子の親し気な雰囲気になぜか足が竦んだ。

そんな私を置いてつかつかと歩み寄ったユウさんが、2人に声を掛けている。

なんだろう、この感じ…
友人同士が知り合いだった、ただそれだけのはずなのに。

「…茜?」
原因のわからない胸のざわつきに戸惑っていると、いつの間にかユウさんと2人こちらに戻ってきていたらしい雪さんの姿がすぐ目の前にあった。

「大丈夫?体調でも悪い?」
「いえ、大丈夫です!なんかぼーっとしちゃって…すみません」
「そう?ならいいけど…あんまり無理しないでね」

気遣わしげな表情を残し去っていった雪さん背中が見えなくなったところで、聞きなれた声が私の名前を呼んだ。

「茜ちゃん?…やっぱり!この前はありがとうね」
「い、いえ全然…こちらこそありがとうございました」
この前という言葉が指す出来事が一気に頭に浮かび上がり、内心ぎくりとしながらも必死で平静を装う。

「ゆっくり話したいんだけど、もう行かなくちゃいけなくて…またゆっくりランチでも」
「あっはい、ぜひ!」

颯爽と歩いていく里香さんの姿を見送ったところで、ようやく詰めていた息を吐く。
槙くんと話すと意気込んで無理矢理まとめたはずだった私の頭の中は、再び嵐が去った後のようにぐちゃぐちゃになっていた。