「雪?」
通話を終えるのと名前を呼ばれるのは、ほぼ同時だった。
懐かしい、けれど変わらないその声に。

携帯電話を胸ポケットに直して振り返ると、記憶の奥の方に思い描いたその姿がそこにあった。

「里香」
「やっぱり!久しぶりね、元気にしてた?」
「あぁそれなりに元気にやってるよ。里香は…って、聞くまでもないか」
「どういう意味よ、それ」

今となっては国内どころか海外でも高い知名度を誇る彼女のことを知らない人間は、日本にどれくらいいるのだろうか。

「雪、あれからまた背伸びた?」
「なんだそれ。でも伸びたかもなー、あの頃は里香とあんまり変わらなかったもんな」
「そうだっけ?でも確かに…2人の時はヒール履かないように気をつけてたかも」
「それ、地味に傷つくんだけど」

他愛もない会話の中で、目の前の彼女の言葉に相槌を打つ。
纏うオーラは全然違うのに、笑顔だけはあの頃とあまり変わらないような気がした。

「お取込み中申し訳ありませんが、そろそろお時間です」
聞き慣れた声が聞こえて視線を向けると、そこには雪が立っていて。

茜…?

過去の話は、聞かれでもしない限り話すつもりはなかった。
けれど、このまま不安にさせるくらいならきちんと話しておいた方がいい――
そんなことを視界の端に捉えた茜の姿を見ながら、考えた。